キリスト教学校教育バックナンバー
聖書のことば
伊藤 節夫
「だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい」(マタイ5・39)
高校生になって初めて読んだ聖書。少し(かなり)辛抱して読み進めて、ようやくマタイ福音書の真ん中辺りまでやってきました。どこかで聞いたことがある言葉が目にとまりました。聖書の中にある、とは知っていましたが、それを初めて自分の目で見つけて読みました。そして…
改めて驚きました。「だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい」。それはない、そんなはずがない。「逃げなさい」じゃないのか、それならよく分かるのだが、と強く思いました。喧嘩にはまるで弱かったので、「なぐりかえせ」ならもっと困ってしまったことでしょう。
やがて教会で教わりました。これは弱虫の論理などではないということを。もちろん喧嘩の仕方でもありません。むしろ勇気の勧めであるということを学んだのです。それは〈君のところで復讐をやめなさい、あなたのところで報復することをやめなさい〉ということだったのです。
そしてその意味に、初めに読んだときよりももっと驚いたのです。静かだけど本物の勇気が求められていると感じました。イエスの教えは何となく弱々しいもの、クリスチャンは何となくおとなしい人と感じていたことが事実と違う、むしろ強い勇気、耐える勇気、そして何よりも、良い関係を作り出していく勇気、それを教えるものだと思ったのです。弱々しくないどころではありません、おとなしくないどころではありません、あのイエスの言葉「平和を実現する人々は、幸いである」を聴き行うことなのです。
どんな争いも復讐、報復がついてまわります。それが争いを固定化し、拡大し、時代を越えて人を苦しませてしまいます。それを〈君のところで復讐をやめなさい、あなたのところで報復することをやめなさい〉と教えています。
〈啓明学園中学校・高等学校聖書科教諭〉
キリスト教学校教育 2007年3月号1面