キリスト教学校教育バックナンバー
聖書のことば
龍口 奈里子
「あなたがたの中に、百匹の羊を持っている人がいて、その一匹を見失ったとすれば、九十九匹を野原に残して、見失った一匹を見つけ出すまで捜し回らないだろうか」(ルカ15・4)
羊は従順で、おとなしい動物です。百匹いれば百匹が連なって、群れをなして行動するといわれます。でもその中に、たった一匹だけみんなから外れてしまった羊がいました。羊飼いはどうするでしょうか。九十九匹を山に残してでも、そのたった一匹を見つけるまで捜し求めます。なぜなら、羊飼いにとって、百匹はひとつの集団ではなく、一匹一匹が形も顔も色も違う、大切な、愛すべき一匹だからです。
九十九匹よりもたった一匹を大切にするというイエスのこの教えは、他をないがしろにしてでも、一匹だけを大切にすればよいと言うのではありません。居場所を見失った一匹(私たち)にすべてを注がれる主イエスの愛が描かれています。
私たちは今、何もかも管理された仕組みと、効率や勝敗が優先する社会の中に生きています。誰かがスピードを上げたら、他のみんなも追いつくために速く走るしかない、足並みをそろえなければ悪い評価を受けてしまう、だからまたひた走りに走る。一人一人の価値よりも、最大多数が幅をきかせる時代です。でもこんな時代だからこそ「みんなから外れても大丈夫だよ」と、受け止めてくれるのを、誰もが待っているのではないでしょうか。
入学後まもなくして、いわゆる「閉じこもり」になった大学生が、もう一度キャンパスの門をくぐり、復学を志したとき、彼の心を捉えたのは、手続きに訪れた課の職員の方の「一緒にがんばりましょうね」という何気ない一言だったそうです。その職員の一言で、青年は、閉ざした心を外に向け始めていったのでした。
私たちも、五月のさわやかな風のように、イエスの愛を受けて、出会う一人一人を大切にするという、大事な使命が与えられていることをそれぞれの場で考え、実現してゆきたいと思います。
〈東京女子大学キリスト教センター宗教主事〉
キリスト教学校教育 2005年5月号1面