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新たな時代におけるキリスト教学校の使命と連帯-いのちの輝きと平和を求めて-

一般社団法人キリスト教学校教育同盟 Association of Christian Schools in Japan Since 1910

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キリスト教学校教育バックナンバー

キリスト教学校教育懇談会 第1回公講演会
「今、あえて何故女子教育か」

湊 晶子

 私は女学校で軍国主義教育を、敗戦後しばらくして女子大学でキリスト教主義教育を受けました。若き日に「女性の自己確立とキャリア探求」の重要性に目覚めることによって、私の人生は大きく変わりました。育児休暇も保育園もなく、子供を置いて仕事に出ると批判された時代に職に就き、半世紀を経た今、「あえて何故女子教育か」というテーマの講演依頼をいただきました。自分の生きて来た道と重ね合わせつつ語るべき責任を感じ、お引き受けした次第です。

一、キリスト教女子教育は私に何を教えたか

1.女性である前に「人」であることを。北森嘉蔵先生によるキリスト教学の最初の授業が、失楽園の家庭悲劇、カインによるアベル殺害事件からはじめられたことに驚きました。「あなたは罪を治めなければなりません」(口語訳)という神の命令に背いて、自らを制することが出来なかったカインに自分を重ね、「人間とは」を深く考えさせた授業でした。女性として生きる前に「人」として存在することに目覚めた瞬間でした。

2.リベラル・アーツ教育の意味を。最初の英語の授業でリベラル・アーツという言葉に接し戸惑ったことを思い出します。東京女子大学の初代学長新渡戸稲造先生は、『内観外望』の中で「学問の第一の目的は人の心をリベラライズするといふこと、エマンシペイトすることである」と述べていますが、軍国主義教育の後遺症が残る女性たちの心を自由(リベラライズ)にし、既成概念から解放(エマンシペイト)して自らの可能性や目標を発見させたリベラル・アーツ教育によって、多くの女性たちは人生テーマを見出すことが出来ました。

3.キャリアモデルに出会う大切さを。当時のキャンパスには、輝いて仕事をしておられた外国人女性教師や、外国で教育を受け自立した先輩教師がたくさん居られました。女子教育の現場でキャリアモデルに出会えたことは、大きなチャレンジでした。

 この半世紀の間に時代は大きく変動しました。一九七五年の「国際女性年」を契機として男女平等にむけたさまざまな取組みが行われて来ました。一九九九年六月には男女共同参画社会基本法も施行されました。しかし改革は途上にあり、解決にはほど遠い道のりがあります。

二、今、あえて何故女子教育か

1.男女共同参画時代を実現するために。新渡戸先生は、『人生雑感』において、「婦人をして真の位置を獲得せしむるために百年間の準備が必要である」と述べていますが、二十一世紀男女共同参画時代を実現するためには、時間と意識改革が必要です。

 最近女性学よりも、ジェンダー論が主流になって来ました。男性も視野に入れ、女性性、男性性は性別によってあらかじめ定められるのではなく、歴史・社会・文化の中で形成されるという出発点から研究を進めるジェンダー論が強調されるようになりました。私は、真の男女共同参画時代を樹立するためには、歴史学的、社会学的視点に先立って、「男性も女性も人格として創造された」とする神学的人間論が必要であると思っています。キリスト教女子教育機関に託された使命です。

2.女性の人格的平等性を定着させるために。明治初期以来多くの私立学校が女子教育の面で、社会貢献をしたことは周知の通りです。特にプロテスタント側では早くから日本人女性リーダーが育成されました。明治、大正、昭和初期を通して女子人格教育の先覚者、新渡戸先生の影響が大きかったと思います。

 一八九〇(明治二十三)年には、桜井新栄が合併され矢島楫子により女子学院が、一九〇〇(明治三十三)年には津田梅子により女子英学塾(後の津田塾大学)が、一九一八(大正七)年には新渡戸稲造を学長に安井てつを学監に迎えて東京女子大学が、一九二九(昭和四)年には河井道により恵泉女学園が創立されました。

 明治以来設立されたすべてのキリスト教女子教育機関には、創造主、神との垂直的縦関係から樹立される人格形成の理念が地下水の様に流れていました。男女共学化の大きな潮流の中にある現代、自立した人格としての生き方を確立し、男女共同参画社会の実現に寄与し、高度の社会貢献を行いうる女性を育成する責任が、強く求められて来ています。明治期以来担って来た女子人格教育を社会的に実現する使命はまだ途上にあります。

3.国際的協調を発展させるために。明治期以来の伝統的な女子大学が、その創設期に西欧から受けた計り知れない恩恵を考えますとき、いま私達がアジアのみでなく、多くの「発達しつつある国々」の女子教育の発展のために、多年の経験とエネルギーを惜しみなく供給すべきであり、それは、私達に課せられた重要な責任でありましょう。女子大学同士が結束して効果的プロジェクトを推進することも出来ます。現に二〇〇二年より五女子大学が「アフガニスタン女子教育支援コンソシアム」を立ち上げ、実りある活動を致しております。将来的には多くの女子大学に拡大したプロジェクトに発展させることが出来ればと願っています。

 キリスト教主義女子教育機関から、新しい時代を見据えつつ冷静な判断力と決断力を兼ね備え、社会の中で責任ある行動を取ることが出来、しかもやさしさを忘れず他者を受容でき、日本および世界に貢献できる女性が多く輩出される様にと希望しています。そのために、カトリック、プロテスタントの枠を越えて協力体制が強められますようにと願って居ります。

〈東京女子大学学長〉

キリスト教学校教育 2004年5月号4面