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一般社団法人キリスト教学校教育同盟 Association of Christian Schools in Japan Since 1910

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キリスト教学校教育バックナンバー

ブックレビュー 
日本の女子教育の先駆者、「活水学院」の創設者の足跡
白浜 祥子著
『長崎活水の娘たちよーエリザベス・ラッセル女史の足跡-』
2003年12月1日・彩流社 B6版・265ページ・価1800円+税

廣畑 譲

 副題の「エリザベス・ラッセル女史の足跡」が示すように、一八七九(明治十二)年に活水学院を創立し、以後四十年にわたって学院とその生徒の育成に献身した、一人の婦人宣教師の感動的な物語である。

 著者は学院の卒業生であるが、創立者の長崎における長期の足跡を、信仰に生きた気高い献身の物語として偶像化するのではなく、一人の自立した女性が、その時代の中でどのように人となり、何に導かれ何を信じて生涯を生きたのかを、温もりのある人間の姿として再現することを志している。

 著者は、長崎東山手に今も往事の面影を留める母校訪問の叙述から始めて、女史の故郷オハイオ州にその足跡を求め一人出掛け、その旅がサンフランシスコで終わる叙述へと続く。そして百二十五年前、ここの港から「太平洋を越えて(第二章)」旅立つ二人の婦人宣教師の姿を描き出す章へと展開する。

 この作品は著者の、創立者の実像を求める熱い思いによって描き出される、歴史物語であると言えるであろう。それ故、記述の正確性を重視する編年的伝記が果たせない、十分に感動的な作品になり得ている。冒頭に「感動的な物語」といったのはその意味である。この作品に対しては、既に地元「長崎新聞」のみならず、「週刊読書人」にも、上智大学上田康夫教授が好意的な評価を与えている。

 これらは、ラッセル女史が、信仰に基づく使命感とその献身によって、多くの伝道者や社会活動家を育てたことが、この作品の描写的な表現をとおして感動的に感じられるからに違いない。

 著者は、『活水学院の創立者エリザベス・ラッセル女史の生涯』(女史の手記、前院長・米倉邦彦訳)、および『栄光の国物語』(パトリシア・マックリアリー著・女史の研究・資料収集家・米倉邦彦訳)を資料の基本に据えながら、女史の生涯を物語る。そして、この作品はラッセル女史の全貌を求めての著者と資料との対決であり、また著者が資料を透して垣間見たと感じる、女史の真実への共感でもあろう。『活水の娘たちよ』の言葉に象徴される、ラッセル女史の建学の理想と、教育の足跡をたどりつつ書き進めるに従って、著者の胸中にわき上がってきた、卒業生としての誇りと喜びでもあろうか。

 上記の資料は様々な場面として描写的に表現され、ラッセル女史とそれを囲む人々が肉付けされている。こうした場面の造形を支えているのは、物語の登場人物達が生きた、激変する日本社会、教育界・制度などの背景描写にも紙数を割いているからであろう。取り分け、長崎の時代背景は詳細である。

 それは、著者が長崎で生まれ育った、いわゆる土地勘があると言うだけでなく、『ニコライの首飾り 長崎の女傑おエイ物語(彩流社刊)』という同時代の長崎に生きた女性の伝記的作品を前作として持っているからでもあろう。こうして蓄積された長崎の歴史をはじめとする知識、日本の近代化の黎明期についての理解がさらに深化して、独特の史観として背後に感じられる、長崎の明治期を生きた女性の新しい物語を期待したい。

〈活水学院理事長・院長〉

キリスト教学校教育 2004年4月号4面